手と脳と「ざんねん」な進化の話

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手書きの道具が、捨てきれない。黒鉛を紙に擦りつけるだけの行為だが、それが捨てきれない。タブレットにデジタルペンシルを使える環境は、仕事の効率を考えると用意せざるを得ない。しかし、これまでに何度か紙とデジタルの間を往復している。今はちょうどアナログの紙と鉛筆にスポットライトが当たっている。

往復のきっかけはいつも些細なフラストレーションだ。紙からタブレットに移る理由は、紙に書きなぐった情報の共有スピードの手間。遠隔で一緒に仕事するメンバーに、ましてや、熊谷にいるクライアントにさえ、今ここで書いた紙は写真を撮るか、スキャンをするかして送るしかない。そこでタブレットを使い始め、クラウドソフトを使い、情報の共有スピードを上げるのだが、今度は電源の消費量と、余計な楽しそうなアプリが目に入って気が散るはめになる。すると一周して、紙と鉛筆に戻ってくる。変わるとすれば、鉛筆が少し進化してペンや万年筆になる程度だ。永遠にこのループからは抜け出せないかもしれないと思うとうんざりする。ただ、文房具のコレクションが増えるのは少し嬉しい。

スマホを目の前にした最近の子供たちの様子を見ていると、真っ先に指先でスマホの画面を擦り始める。動画のコンテンツの画面をフリック(flick:はね跳ばして)していく。今はその小慣れた様子にも驚かなくなったが、最初に見たときはギョッとした。大げさでもなく、人の「進化」を目の当たりにしたその衝撃は忘れられない。それ以降、デジタル画面に対峙した子供の様子を注意深く観察するようになった。画像を見ると、彼らは条件反射的に擦る。とにかく擦る。擦りまくる。Macの画面を子供の前に出す時には、お菓子を食べた油まみれの手で躊躇なく擦られるので要注意だ。タッチ反応しないMacを使って申し訳ない気持ちになる。

手は脳と大きな関係があり、進化に影響を大きく及ぼしてきたらしい。やはりというべきか、体感としてそれを感じることも多い。

じつは大脳皮質の約3割が、手指の動きをコントロールするために使われているらしいのです。カナダの脳神経外科医のペンフィールド(1891〜1976年)という人がつくった『ペンフィールドのマップ』と呼ばれる図によると、手や指のはたらきは顔や口などと同様に、大脳皮質の多くの部分を占めているということです。
『ペンフィールドのマップ』というのは、大脳皮質の各部位と人間の体の各部位の感覚や運動の関係を示した図のことです。それによって、足や頭、手や指、顔、舌、唇などの感覚や運動の機能が、大脳皮質のあちこちにあって、それぞれ分業していることが分かったのです。
人間は2本の足で歩行できるほ乳類ですが、ほかのほ乳類と決定的に違うのは、手指を自由に操れることだといわれます。手を使うことで人間が文明を築いてきたといわれるのはそういうことだったわけです。
指先には脳につながっている神経がたくさんあるといわれています。「手は第2の脳」とか「手は外部に出た脳」などといわれる所以がここにあります。

手は外部に出たもう1つの脳?|プラスコラム| +Wellness プラスウェルネス

しかし、あるテレビ番組である生物学者の今泉忠明が「<進化>が全ていい方向に進んでいるなんて勘違いだ」と言っていた。私が目撃した小さな<進化>は、いい方向に進んでいる進化なのだろうか。自分たちが生み出した道具に振り回されているこの状況をどう理解したらよいのだろう。日本でもデジタル教科書が普及を開始し始めている。カリキュラムもそれに沿ったものに軸足が移っていくはずだ。同時に、学びの場から何を失うのか、しっかり見極めていく必要がある。

そうでなければ、ヒトという種は、「ざんねんないきもの」の末尾に掲載されかねない。
こんなふうに。

おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典 | 今泉忠明, 下間 文恵, 徳永 明子, かわむらふゆみ |本 | 通販 | Amazon

2019.10.17
いいのやすひろ